江戸の粋を胸に、実業と文学に生きたディレッタント
胡蝶本や「文明」の版元として明治・大正期に足跡を残す籾山書店。
虚子から「ホトトギス」を引き継いだその人は、荷風の生涯の友であり、鷗外を敬愛し、漱石を痛罵した……
籾山は江戸から続く飛脚問屋の三男坊として生まれるが、その実家は継がず、婿入りした海産物問屋も継がず、出版業を生業とする実業を開始する。籾山にとってはまず生業が重要であり、文芸を余技と位置づけられている。籾山は経済に対する関心も強かったが、これまで採りあげられる機会は無かった。本書は、〈生業と余技〉という観点から籾山の遺業を捉え直す試みである。
籾山仁三郎(にさぶろう)、俳号梓月(しげつ)は、現在、文芸評論家あるいは装幀美術に関心のある美術評論家に、俳人、出版人として言及されることはあるが、その機会は稀である。これまで籾山は、永井荷風の陰に佇む人物として位置づけられてきた。荷風より丸二年先に生まれた籾山(明治11年1月生)は、荷風より丸一年先に逝く(昭和33年4月2歿)。
目次
叙
第一章 日本橋っ子・籾山仁三郎
第一節 飛脚問屋に生まれた日本橋っ子
第二節 俳諧との縁
第三節 藤沢・耕餘義塾での文芸教育
第四節 三田・慶應義塾での経済教育
第二章 日本橋から築地へ
第一節 海産物問屋・籾山家へ入婿
第二節 築地籾山別邸での暮らし
第三節 籾山の親族と転居
第三章 生業〈出版社経営〉
第一節 俳書堂の出版活動
第二節 籾山書店の創設と多領域の出版活動
第三節 籾山書店の変遷―築地から銀座・丸の内へ―
第四章 余裕の余技と多彩な趣味
第一節 童話作家:丹羽五郎
第二節 散文集『遅日』の評価
第三節 多彩な趣味
第五章 余技〈俳諧文芸〉
第一節 連句再評価『連句入門』の刊行
第二節 句集『江戸庵句集』『冬うぐひす』
第三節 「校訂餘言」という文芸
第四節 多様な文体―尺牘文・和文―
第六章 生業〈雑誌の編集・販売〉と余技〈寄稿〉
第一節 『三田文学』
第二節 『文明』
第三節 『俳諧雑誌』
第四節 『春泥』など
第七章 三文豪〈荷風・鷗外・漱石〉に向かう姿勢
第一節 生涯の友・荷風
第二節 鷗外への畏敬
第三節 漱石を痛罵
第八章 先達と後継
第一節 籾山の先達
第二節 籾山の後継Ⅰ〈商人系〉
第九章 生業〈会社員〉と余技〈俳諧〉
第一節 時事新報社役員・籾山仁三郎
第二節 病床での句集『鎌倉日記 伊香保日記』『浅草川 冬の日』
第三節 籾山の後継Ⅱ〈会社員系〉
第十章 告別
第一節 籾山の後継Ⅲ〈門弟・田島柏葉〉
第二節 独吟歌仙『古反故』と最後の句集『冬扇』
終章 追 悼
跋
籾山仁三郎 年譜
修正・増補のお知らせ
記述に不正確な点がありましたので、以下、修正、増補いたします。
75頁後ろから2行目
【誤】原作二作をつなぎ合わせつつも基本構成は変えずに、
【正】『Alice’s Adventures in Wonderland』の基本構成は変えずに、
77頁後ろから5行目「永代静雄『アリス物語』紅葉堂書店 大正元年十二月」
の後に
(初出は『少女の友』創刊号(明治41年2月)より断続的に連載。但し永代の創作も混在している。)
を加える。
江戸おんな歳時記
江戸期の女性は自由だった! 年齢、身分を問わず全国から選りすぐった俳句案内。 読売文学賞受賞作!
歌は季につれ
「昭和の歌」の歳時記
「俳句の家」に生まれ、NHKで歌謡番組を制作、作詞家・阿久悠を陰で支えた小説家が、昭和の歌をモチーフに季節をめぐり俳句につなぐ。
飛花落葉
【遺稿エッセイ集 3】
土地の民話と季節が呼び起こしたさまざまな記憶。俳人や俳句への遥かなる思い。
奥の横道
寺山修司、横尾忠則らとともにアヴァンギャルドの旗手として一時代を牽引した日本を代表するイラストレーターが、エッセイとイラストレーションで描き俳句で切り取る、画期的な試み。華麗な交流、創作の源泉、多彩な趣味が溶け合う、「現在」と「記憶」の幸福な螺旋―。