ジョイス、ホイットマン、バトラーら英米文学から中南米文学、伊文学まで〈世界文学の仲介者〉として多言語の文芸を翻訳したコスモポリタン作家ヴァレリー・ラルボー──聖ヒエロニュムスの論考を筆頭に、500余名の文人をめぐり翻訳の理念、原理、技法がエッセイで説き明かされる翻訳論の白眉。本邦初訳。
理想と現実に引き裂かれる曖昧なる人間の愚かさを見つめ、キリスト教社会の欺瞞、西欧社会の偽善を炙り出す――『白鯨』の著者メルヴィルが世界の破滅絵図【ピクチュアレスク】として描いた大長編の問題作。
半神たちが屑を踏みつけている。「美徳」と「悪徳」も屑なのだ! イザベル、ぼくはそういったことを書くつもりだ――そしてぼくは、この世界にあらためて新しい福音を説き、『黙示録』よりも深い神秘を示してやる!――そういうものをこそぼくは書く! いや書いてみせる!
全26書のうち、上巻には、イザベル登場によりピェールの反逆の人生の火蓋が切られる〈第12の書〉までを、下巻には、故郷からの旅立ち、作家への道と破天荒な人生行路が待ち受ける〈第13の書〉からを261収録。
【お詫び】カバー袖の著者生没年の誤りについて
上・下巻とも
【誤】1777-1843
【正】1819-1891
1刷での誤りです。2刷以降修正いたします。訂正し、お詫び申し上げます。
アガサ・クリスティらと、1920~30年代の〈探偵小説の黄金期〉を牽引した女性作家ドロシー・L・セイヤーズ――探偵らしさと男らしさの狭間で存在の不安に揺れ動く男性探偵の危うさに焦点を当てた、〈ピーター・ウィムジィ卿〉シリーズの重要な転換期となる奇妙な探偵小説。
個人的な感情が調査に影響したことはこれまでにもあったが、それが彼の知性を曇らせたことはなかった。彼は手探りをしていた――自分のことをあざ笑いながらあちこち逃げていく可能性を摑むために。出鱈目に質問しては目的を見失い、かつては刺激的だった時間の足らなさはいまでは彼を怯えさせ、混乱させてもいた。
ナポレオンとの政治的対立から追放されながら、個人の自由と寛容を重んじ、政治的リベラリズムを貫き通したスタール夫人――奴隷制度廃止宣言の翌年に刊行された、三角貿易の拠点セネガル、アンティル諸島、ル・アーヴルを舞台にした三人のヒロインたちによる「愛と死」の理想を描く中編小説集。本邦初訳。
目次
1795年の序文
三つの物語
ミルザ、あるいは、ある菱光社の手紙
アデライードとテオドール
ポーリーヌの物語
註
スタール夫人年譜
訳者解題
原タイトル:Trois Nouvelles
訳者解題の一節は
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土地固有のかたちとフランス語の多様性を追求し続けたスイス・ロマンドの国民作家C・F・ラミュ──ラヴォー地域の村落を理想郷として描く詩的小説の表題作、故郷の地勢から発する文学を決意した「存在理由」、「手本としてのセザンヌ」「ベルナール・グラッセへの手紙」を収録。本邦初訳。
20世紀スイスロマンド文学を代表する女性作家アリス・リヴァ――告白体の軽快な「女性の文体」で〈女の生〉を赤裸々に綴った、時代に先駆けたフェミニズム小説の表題作と、名もなき者たちの沈黙に言葉を与える詩的散文『残された日々を指折り数えよ』の2篇を収録。本邦初訳。
『ウンディーネ――水の妖精』の詩人が書いた大ベストセラー小説が、210年の時を超えて蘇る!――『指輪物語』『ナルニア国物語』の先駆となった冒険ファンタジー小説の原像。汎ヨーロッパのヴィジョンを夢幻に繰り広げた、力と美の奔出する中世騎士道絵巻。本邦初訳。
上:第1部+第2部第11章まで 384頁
下*第2部第12章から+第3部+著者年譜+解題 496頁
〈メグレ警視〉シリーズの作家が、人間であることの病いをどこまでも灰色に、〝イヤミス〟以上にほろ苦く描く——シムノン初期の、「純文学」志向の〈硬い小説〉の傑作2篇がついに本邦初訳で登場! シムノン研究家の顔をもつ小説家・瀨名秀明による、決定版シムノン「解説」を収録。
彼は疲れはて、眠りこんだが、激しい頭痛で目が覚めてしまった。強迫性のものだった。自らを取り巻くこの単調さ(グリザイユ)、空虚、無気力からどう抜け出したらいいかわからなかった。こうした生気のないところで、彼の人生は希薄になった空気中の炎のように燃えつきようとしていた。
若くして祖国を離れ、他郷での船乗り体験から作家へと転身、複数の言語と文化を越境しながら、政治小説、海洋小説の名作を世界文学に残した〝二重の生を持つ人〟コンラッド――ナポレオン戦争期の南仏・地中海の、老練の船乗りの帰郷と静かな戦いを描く、知られざる歴史小説。本邦初訳。
憂鬱は、ペロルには馴染みのない感情だった。というのも、そんなものは海賊、つまり「沿岸の兄弟」の一員の人生には関係がないからだ。〔…〕陰気な憤怒や狂ったようなお祭り気分が外からやって来て一時的に爆発したことならあった。しかし、すべては空しいというこの深い内なる感覚、自らの内なる力を疑うあの気持ちを味わったことは彼には一度もなかった。
「精神と官能」「男と女」――色鮮やかな生の無限の混沌を、あふれる機知とイロニーでもって、めくるめくアラベスクへと織りあげたマニエリスム小説の傑作『ルツィンデ』のほか、文学と哲学、そして愛をめぐるフリードリヒ・シュレーゲルの初期批評3篇を収録。
■目次
ルツィンデ ひとつの小説(ロマーン)
ディオディーマについて
哲学について ドロテーアヘ
小説(ロマーン)についての書簡
註/フリードリヒ・シュレーゲル年譜/訳者解題
【お詫び】
奥付の著者名:シルビア・オカンポとなっておりますが、正しくは シルビナ・オカンポ です。訂正いたします。
ボルヘスやビオイ・カサーレスに高く評価され、「アルゼンチン文学の秘宝」とも称された短編小説の名手シルビナ・オカンポは、日常生活に隠された不思議から奇想天外な物語を引き出した。幻想的リアリズムの頂点をなす怪奇短編集『復讐の女』と『招かれた女たち』の全78篇を収録。本邦初訳。
収録作品
■復讐の女
金の野兎/
続き/
病/
後裔/
砂糖の家/
時計の家/
ミモソ/
ノート/
巫女/
地下室/
写真/
マグシュ/
土地/
品々/
私たち/
復讐の女/
引き出しに紛れ込んだ手紙/
死刑執行人/
黒アサバチエ玉/
最後の午後/
ビロードのドレス/
レオポルディーナの夢/
周波/
結婚式/
女性患者と医師/
電話の声/
罰/
お祈り/
創造(自伝的物語)/
吐き気/
快楽と罰/
友達同士/
天国と地獄の報告/
絶滅しない人種/
■招かれた女たち
あんな顔つきだった/
雄牛の娘/
脱走/
ベッドの下の手紙/
現像/
アメリア・シクータ/
黒雑貨屋/
階段/
結婚式/
科学の進歩/
幻視/
寝床/
煙の輪/
檻の外/
イシス/
復讐/
シビュラの恋人/
モーロ/
エクアドルの不吉な男/
魔法の医師/
近親相姦/
手の平の顔/
愛人たち/
ティルテ温泉/
地下生活/
鬘/
贖罪/
亡霊/
マルメロの牝鶏/
セレスティーナ/
イセラ/
完全犯罪/
結び目/
愛/
致命的罪悪/
ラダマンテュス/
穀物倉庫/
刻印の木/
別れの手紙/
魔法のペン/
ポルフィリア・ベルナルの日記/
ミス・アントニア・フィールディングの話/
招かれた女たち/
石/
アドラーノ寺院のマスチフ犬/
Schillers ausgewählte Dramen. Wilhelm Tell
14世紀初頭、代官の圧政に苦しむスイス三州の民衆は、独立を求めて同盟し蜂起する――盟友の文豪ゲーテとの交遊を通じて構想された、〝弓の名手〟の英雄ヴィルヘルム・テル伝説、スイスの史実を材に、民衆の精神的自由を力強く活写した、劇作家シラーの不朽の歴史劇。
あの地獄の苦しみの瞬間に俺が誓った事は、
俺にとっては神聖な責務だ。俺はその務めを果たす。
偽善社会をこき下ろし、ディドロに「心臓に毛が生えている」と評された、人相不明の諷刺作家フジュレ・ド・モンブロン――エロティックな妖精物語『深紅のソファー』と遊女の成り上がりの物語『修繕屋マルゴ』、奔放不羈な旅人の紀行文学『コスモポリット(世界市民)』を収録。
フランス革命の只中、18世紀末のトリノで、世界周游の向こうを張って42日間の室内旅行を敢行、蟄居文学の嚆矢となったグザヴィエ・ド・メーストル「部屋をめぐる旅」――その続編「部屋をめぐる夜の遠征」、および「アオスタ市の癩病者」の小説3篇と、批評家サント゠ブーヴによる小伝を収録。
■収録作
部屋をめぐる旅
部屋をめぐる夜の遠征
アオスタ市の癩病者
シュルレアリスムの先駆的存在と知らしめた〈イマージュ〉から孤高の存在へと歩を進めた詩人ルヴェルディ――初期から晩年に至る30篇の「詩」、本邦初訳「詩と呼ばれるこの情動」他「詩論」4篇、E・グリッサンのルヴェルディ論を付したルヴェルディ詩学の核心に迫る精選作品集。
訳者による本書の解題(抜粋)は
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無情な現実に引き裂かれる男女の合間をドラマティックに物語る、本邦初訳の未完小説『過去への旅』。
作者の生涯最後の日々に完成した、チェスをめぐる孤独と狂気の心理を克明に描く『チェス奇譚』。ツヴァイクの生涯を貫く〈内的自由〉の思想を映した二つの傑作中編。
何ものへも導くことのない思考、何も算出しない数学、作品のない芸術、実体のない建築、そしてそれゆえにこそ、疑う余地なくそのありようと現存性において、どんな書物や芸術作品よりも永続的である……
生の豊穣と頽落、夢想の萌芽、成熟から破綻までを絢爛なアラベスクとして描きだした、世紀末デカダンスに先駆ける〈幻滅小説〉。リルケ、トーマス・マン、ヘッセ、ツヴァイク、ホーフマンスタール、ムージル、ジョイス、ルルフォを魅了した19世紀デンマーク文学の傑作長編。
◆本文より
退屈な生のいつ終わるともない寂寞(せきばく)のなか、空想が光輝の花を振り撒(ま)いた。夢みるような気分が胸内にただよい、生気あふれる芳香で心を誘い、蝕んだ。香りには、生気に渇えた胸さわぎの甘やかな毒が潜んでいた。
彼の語りの静かな淵泉から掬いとられた一滴一滴は、ひと雫の霊液かもしくは毒液ほどに重く強烈で、薫気の凝滴のように香りたっている。彼の朗読には、心を傾惑し陶酔させるものがある。我々の散文のうちに醸成された、芳烈この上ない気分をたたえた美酒である。
──ギーオウ・ブランデス
ヤコブセンの書物は、どこをとっても繊美な詩人の作です。当世がこの領域で生み出した、最上の傑作に属するといっていいでしょう。
──ヘンリック・イプセン
ニルス・リューネという、情熱に富んでいるがまるで才力はなく、生への無限の意志を抱きながら、夢想に窒息し重苦しい倦怠にうち拉がれているといった具合の、この半ばヴェルターにして半ばハムレット、はたまた半ばペール・ギュントともいうべき男によって体現された、空想的ながら深邃きわまりない独特な形影に、その憧れまどう遍歴に、我々は彼の感傷家的な気質を、いたましい鬱屈を、堰きこめられた憧憬を、そして、心底からの望みが叶うことなどないのだという悲劇めいた悟りを認めるのである。
──シュテファン・ツヴァイク
私は『マリーイ・グルベ』が心から好きです。『ニルス・リューネ』は輪をかけて好きです。いずれも堂々たる書物です。
──T・E・ロレンス
貧困に負けず学問を続けて大成する、独学者の数奇な人生行路を描いた18世紀ドイツの自伝文学。「疾風怒濤」運動の中心人物ゲーテ、観相学者ラヴァーター、思想家ヘルダーらとの親交から生まれた、〈ヴィルヘルム・マイスター〉よりも大衆に読まれた教養小説。本邦初訳。
◆本文より
聴衆の前で話しているとき、シュティリングは水を得た魚(うお)であった。話しているうちに彼の頭の中で概念がどんどん発展していき、しばしばすべてを言い表すための十分な言葉を見つけることができないほどだった。話しているとき、シュティリングという存在そのものが明るく晴れわたり、混じりけのない生命とその表出そのものになった。
ユング゠シュティリングのエネルギーの本質は、決して揺らぐことない神への信仰と、あらゆる災厄から間違いなく彼を救い出してくれる神慮への信頼に端的に表れていた。
──ゲーテ
現存するドイツ書のうち、最良の書であるエッカーマンの『ゲーテとの対話』を除けば、いったい何が繰り返し読まれるに値する散文文学だろうか。リヒテンベルクの『箴言集』、シュティフターの『晩夏』、ケラーの『ゼルトヴィーラの人々』、そしてユング゠シュティリングの『自伝』の第一書。これで当面は種切れであろう。
──ニーチェ
この素朴で胸に沁みる青春物語は、その飾らない筆致と相俟って、今もって感性の鋭い真面目な人々が耳傾けるに値する。
──ヘルマン・ヘッセ
「神の国」へ招かれた者の一人、まるで、そこからやって来て、「神の国」の存在を我々が見聞できるように保証してくれる人。
──ヨーハン・ペーター・ヘーベル
ユング゠シュティリング殿、私に真に実践的なキリスト教の要諦を教えてください。
──アレクサンドル一世
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』のJ・M・ケインの、映像化されたノワール文学の傑作。大恐慌のロサンゼルス郊外で、役立たずの夫を追い出した女が奮闘する、奮闘する愛と金と逸脱の物語。
アメリカの大衆の夢と欲望を描く。本邦初訳。
ロス・マクドナルド「ケインの日常的細部への卓越した観察眼はジャーナリスト出身ゆえだとわかる」
トム・ウルフ「騒がず落ち着いてジェイムズ・M・ケインを読んで小説の書き方を学習しろとノーマン・メイラーに勧めてやった。」
ゾラをもしのぐアメリカ自然主義の、最高の宿命小説。怪物シュトロハイムに映画「グリード」を作らせた、ノワール文学の先駆的作品。